赤いエスプレッソをのせて

私としては、複雑な気持ちだった。

千代を殺してしまったのは、私だ。それも、くだらない、馬鹿げた理由で。

そんな私にできる、せめてもの罪滅ぼしが、母さんが千代にしてあげていた行為を、引き継ぐことだった。

髪を伸ばして、千代にしてあげていたように私の髪を結わせてあげることだけだった。

そこに、私の望みはなかったと思う。ただ、千代がいない悲しさをごまかして、千代のこれからを背負い込んで、なにかいいことと思えることをしたかった。

だけど、実際に母さんが泣いた時――私の髪を切られたことじゃなく、自分が千代の幻から覚めてしまったことに、あの涙はこぼれていた。

ほんと……複雑だった。一瞬だけど、私はどうなの? と思った。

私は、どうなってもいいの?

髪を切られたのは千代じゃない、私なのよ?

伸ばしてたのも、切られたのも、今ここにいるのも、私。

私のことでは泣いてくれないの?

母さんは、どこを、誰を、見てるの?

そんな風に、自分勝手に抱いた不満を、母さんに問い詰めたかった。

けど、しなかった。

そんな権利、私にはないと思ったから。