赤いエスプレッソをのせて

私が髪を伸ばしているのは、千代のためだ。

九歳までの私は、肩に届くか否かっていうくらいのショートヘアだったけど、千代は背中が丸々隠れてしまうほどの長髪だった。

ただ、妹の一回忌以来、彼女を毎日、毎日目の当たりにするようになった私は、それからずっと、彼女の分まで髪を伸ばし続けた。

彼女は髪を結ってもらうのが好きだったし、私によく自慢していたのだ。

ほらっ、美代ネエいーでしょー、と舌足らずな口調で母さんに編んでもらった三つ編みやお団子を披露する千代の声が、今でも耳の奥に張り付いている。

山下病院への最短ルートにある、緩やかだけど長ったらしい坂道をかけ上がりながら、私はだれにともなく怒鳴ってやった。

「~~~もうっ。なんで急いでる時に限ってこう、坂道とかあんのかしらねーっ、人生って!」

私が千代の分まで髪を伸ばすと、母さんも喜んだ。

まるで千代が帰ってきたみたいだと言い、私の髪をいじるのが一時の間、母さんの確かな楽しみになっていたと思う。

けど、ある日突然、母さんのニセモノの楽しみは終わった。

私が、髪を切られてしまったせいで。