赤いエスプレッソをのせて

(がんばれ、私……千代に笑われるわよ)

「うーっ、がおー……」

気合いを入れるための呪文である。

(まるで猛獣だなぁ、私ゃ)

とっ、とにかく……自分のほっぺたに何度かびんたを食らわせて一時的に眠気をすっ飛ばし、その隙に着るものを着て、速攻で髪をとかす。

財布やらなんやら、必要最低限のものを詰め込んだバッグを肩にかけて、靴を履く――時につまずいて玄関に頭をぶつけ、おかげでいよいよ目を覚ました。

いつもの習慣で、玄関前、今日も当然鏡に映っている千代へ、

「笑うんじゃないわよ。私はこれでも、イッショーケンメー生きてんだから」

言って、飛び出した。

もちろん、本意も不本意もなく、千代を肩に乗せたまま。