赤いエスプレッソをのせて

首だけを動かして彼を見据える。

「オレンジ……オレンジジュースが好きなのは、私じゃないって、言ったでしょ」

そして私、ずいぶん長いこと『絵』を眺めてから、フラフラと立ち上がった。

いまさらだけど、どうしよう、なにをすればいうんだろう。

警察に電話をしたらすぐに彼を取り上げられてしまうからイヤだし、救急車なんか論外だし。

じゃあ……私はどうしよう、どうすればいいんだろう……と、悩んでいると、彼とイーゼルの二つから、ちょうど三角形がっ切るところに、スケッチブックが無造作に置いてあった。

ほっぽってあった、と思わなかったのは、それだけ、ほかと違って一冊、ぽつんとそこに在ったから。

手に取って開いてみると、そこにはまた私がいた。

スケッチブック――彼がクロッキーだと言ったやつだ。

ページをめくっていくと、入院中の私よりも前の私が、そこには描いてあった。

寝てる私、髪の毛が乱れた私、なにかに見入ってる様子の私、台所に立つ後ろ姿――