赤いエスプレッソをのせて

と、その奥の部屋――仕事部屋に、彼の足が見えた。

床の上にポンと投げ出されている。

もしかして、絵の完成を急ぐあまり根を詰めすぎて、私を待っている間に寝てしまったのだろうか。

だとしたら――なおのこと驚かし甲斐があるってものだ。

寝ぼけ眼で私を見て、仰天するといい。

忍び足で部屋のすぐ手前まで行った私は、息をひそめ、そして、

「ショ――――、ぉ……?」

飛び出して抱きついてやろうとした瞬間、ひそめていた息を、どすんと胃へ落とすように、飲み込んだ。

彼は、目を開けていた。

眠ってなんかいなかったんだ。

だって、壁にだらしなく寄りかかって私のほうをじっと、じっとまっすぐに見て……――違う。

(ちょっと、ねぇ……?)

痺れていく手から力が抜けてしまって、どさっと落ちた荷物が床を叩いた。

視界に映える赤い色が、彼を彩っている。

髪の毛だけじゃない。

彼が着ている白いシャツも、真っ赤に染まっていた。

その色には見覚えがある。

あるけど、認めたくない。

だってそれは、血の赤。

彼の手、握られた包丁、力任せに切り裂かれた腹、彼が横たわる床、壁、すべてに、それが。