赤いエスプレッソをのせて

「ショー? ねぇ、ちょっとショー?」

何度も何度も呼び掛けながら、ドアを叩いていた手を、ノブへ持っていく。

回す。

――あ・れ?

鍵、開いてる。

いくらなんでも――私が訪ねてくるって知ってても――無用心過ぎるわ。

「ショー?」

キィ、と頭上で金具が悲鳴をあげるのを聞きながら、そっと室内へ入る。

背後で、ゴ・トン、と重くドアが閉まった。

中は、油絵の具独特の匂いが発ち込めている。

「ねぇ? いるの、ショー?」

呼んでみても、返事がない。

シンと静まり返っていて……ますますおかしい。

もし仮に彼が近所へちょっと出て行ったとしても、留守にするなら部屋の鍵は閉めてくはずだ。

部屋の中を見渡すと、

コーディネートにこだわって綺麗に整頓された家具の配置に紛れて、下書き段階のまま立て掛けてあるキャンバスや、

使い終わった絵の具、

二、三のイーゼルに、

スケッチブックがたくさん積み上げてあるのがイヤでも目に留まった。