赤いエスプレッソをのせて

足がとにかく進む。地面を蹴飛ばす。

千代はもう充分だ。明海さんももうイヤになってきた。

      、、
あそこには、私の絵を描いてくれたショーがいるんだ。

彼が私のことをこれから先もしばらく明海さんとして扱ってもいい。
いつかきっと、『美代という名の明海さん』じゃなくて、『美代という名の私』を見てくれる日がくるだろうから。

きっと、ようやく、私を落ち着かせてくれる人が、すぐそこに……

ゴールの白いテープが、あるんだ。

「ショー、約束通り、ほら、来たわよ! 開けて!」

呼び鈴を鳴らしたばかりか、トントントンとせわしなくドアを叩いて呼び掛けると、

「? ……ショー?」

沈黙だけが、返ってきていた。

――おかしい。

一週間後に来てほしいって言ったのはあっちだし……

退院の日にちを彼が忘れるわけがないし……

私と違って朝が苦手というわけでもなければ、もう昼も過ぎているし……