赤いエスプレッソをのせて

絵を見たら、なんて言ってやろうかな――

こないだのように、私じゃないみたい、なんてことはもう言えない。

ショーに「僕にはこう見える」なんてまた返されたら、しょうもないくらい蹴倒したくなってしまう。だって恥ずかしいじゃないのよ。

人に押されて信号を渡った。

人込みからそれて角を曲がった。

あとひとつずつ。

そういえば私、体臭くないかな?

入院中の荷物もあるんだから、一回家へ帰るべきだったんだろうけど、一刻も早く彼に逢いたかった。

だから、直行してきたんだ。

退院前日から入浴を許可されたんだけど……一応、今朝も無理を言ってお風呂に入った。

大丈夫? 臭くないか、私?

もし彼を驚かそうと思って抱きついた第一声が、なんだかにおうよ、だったら絶望死してしまう。

そして、人の少ない信号を渡った。

車も通らない角を曲がった。

彼のマンションは、もうすぐだ。

ほら――すぐ、そこに――見えた!

その途端、すぐ横で陸上のピストルがパン! と鳴ったような気がして、私は走り出していた。

もう、手の届くところに彼がいる。

彼の部屋は四階の、二つ目。

四〇二号室。