赤いエスプレッソをのせて

私は小さく笑い返してやった。

彼女が、餞別ですよ、とくれた板チョコを、警察官の敬礼のようにひたいへと持っていく。

「それじゃあ、お世話になりました。ほんと、いろんな意味で」

すると、どこからか同じく板チョコを取り出した仲代先生が、まったく同じ仕草をしてくれる。まさか、白衣のポケットにたくさんあるとでも?

「はい、いろいろお世話しました。どういたしまして」

「ショーとケンカしたりしたら、また来ますね」

「私は『恋愛カウンセラー』じゃありませんので、受け付けません」

「またまたそんなこと言っちゃって、実は相談してほしいくせにぃ」

「チョコレート、返してくれます?」

「あっ、いきなりケチんなった!?」

なんて、冗談を交えたお別れをすまし、歩き出す。

あの雨の日ほどではないけど、今日もなんだか分厚い雲が空をずしずしと行進していて、あまりいい天気とは言えなかった。