赤いエスプレッソをのせて

訊いてみれば、病院の人間はみんな忙しくて、ドラマのように患者ひとりひとりを退院する際に見送るなんてことは、患者と意思との間に特別親しい関係がなければ、ほとんどないそうだ。

うーむ、初めて知った。

いつも通り白衣の彼女に対して、一週間前に彼が持ってきておいてくれた、彼が初めて買ってくれた服を、私は着ていた。

仲代せんが、そのことには触れず、変に皮肉っぽい口調で言った。

「私は忙しそうに見えて、実は暇を持て余してますからね。こうやって退院患者さをを見送ることは、よくあるんですよ。というか、精神科の場合患者のケースがケースなので、ほかの医局よりも多いんですがね」

「へぇ、つまり暇人なんですか、仲代先生は」

鋭くツッコミを入れると、彼女はヒョイと肩をすくませた。

さあどうでしょう、と言いたげに彼女のメガネの奥に光る瞳が笑っている。