赤いエスプレッソをのせて

「千代……千代……?」

もともと返事をするようなヤツじゃなかったけど、呼び掛けたところで、千代は鏡の中には戻ってこなかった。

右肩にも、左肩にもいない。

どこにも、いない。

「なによ、もう……」

起こしてしまっていた上半身をそっとベッドの上へ戻して、長く長く息を抜いた。

「消えるなら消えるって一言、言ってからにしなさいよね」

もうこの部屋は、本当に個室になってしまっていた。

ああ、結局、彼にアンタを紹介してやれなかったわね、千代……

ごめん。