赤いエスプレッソをのせて

「千代? あのね私さ、思うわけよ。……たしかに、アンタを殺したのは私よ。悪いのも、私だってわかってる。……けどさ、よく言うじゃない? ケンカやいざこざは、必ずどっちにも悪い点があるって。

千代はさ、自分の悪いところって気付いてる? …………やっぱし、気付いてないでしょ。そういうとこ、私嫌いだったのよね、だから――殺したのよ?

ふふ、ごめんごめん、でも、ほんと、そういう意味よ。――『馬鹿は死ななきゃわかんない』なんて聞いたことあるけど、ありゃ嘘よね。だってアンタ死んだって大して変わりはな――

はいはい、そんな睨まないでくんない? 窓ガラスの向こうから睨まれると、ほんとアンタ、怖いわ。だってアンタ、死んでるんだからね。そんなとこにいたら、マジで幽霊じゃん。

――……んねぇ、死ぬって、やっぱし痛かった? 私が刺した時、痛かった? ……ごめん。痛かったわよね。私も、刺されてわかったわ……。

死ぬのって、すごく怖いことってわかった。別に、痛さとかさ、そういうんじゃないのよね。痛いっていうのはオマケで、ほんとに怖いのは、自分でもなにがどうなってるかわからないことよね。

……うん、ごめん。……千代もわかんなかったよね……私がアンタ刺すなんて、全然思ってなかっただろうし、アンタのこと妬んでたなんて、知らなかったもんねー。

……――うん、ごめん。私、悪いお姉ちゃんよね。妹のアンタにいろいろ取られた気がしてさ、悔しくって、どうしようもなかったのよ……でも、だからってアンタを殺したのはやり過ぎたと思う。ごめんね、千代。

あっ、そうだ、ごめんねついでにさ、今度店長にお願いしてアンタの好きなオレンジジュースをどうにか――
……千代……?」

気が付いた時には、千代は窓の中にはいなかった。