赤いエスプレッソをのせて

今日は一日、面会時間が切れるまでそばにいてくれると思っていたのに。

昨日あれだけ私の絵を描きたがっていたんだから、またいつまでもいつまでも、飽くことなく私を描き続けてくれると、そうちょっと期待していたのに、帰っちゃうの?

小脇に道具を抱えた彼は、なにかを隠すような笑みを浮かべると、ひょいと肩を上げ下げしてみせた。

「この絵を完成させるんだよ。今日から一週間くらいで、それはもう特急で完成させるつもりさ。ただここが絵の具で汚れたら大変だし、完成品はお楽しみとして取っておいたほうが、実際に目にした時に美代だって驚くっていう楽しみができるだろ?」

それはそうだけど、けれど、一生懸命筆を走らせて、鮮やかな色彩の絵の具を活き活きとキャンバスに乗せていく彼の姿を見ていたい、という願望もあった。

絵描きだ絵描きだという彼の絵を、私は今初めて(クロッキーだけど)見た。

あれを『雑』というのなら、渾身一筆を込めて描いた絵は、どんなものになるんだろう。

その題材が私だと思うと、なおのこと期待が膨らんでしまう。