「どうして?」

と、彼が問うた。

「ど、どうしてって……私っ、こんな美人じゃないもん」

あたふたする私を彼は、ははっ、と歯切れよく笑う。スケッチブックを取り返し、上からしたまで、そこに彼だけが知ってるだろう絵の見所をじっくり堪能してから、口を開く。

「アナタがそう思っていても、僕にはこう見えるんだ。これは僕の、そうだな、僕の心の鏡がアナタを写した姿なんだ。どうすることもできないよ」

やだもう、アンタそれ言ってて恥ずかしくない? なんてけなしてやる以前に、どうしてよもう、こんな生っちろいセリフが嬉しくて仕方ない。

今まで浴びたことのない、愛情だけギュウギュウに袋詰めされた、そんな言葉。

抱き締められたわけでも、キスされたわけでも、ましてや冷たくされたわけでもないのに、胸が張り裂けて涙が出そうだった。

「――さて、と」

「? ――え、帰っちゃう?」

キャンバスとイーゼル、スケッチブック、それから絵の具らしき道具一式を抱えて突然立ち上がった彼に、驚いて訊ねた。