赤いエスプレッソをのせて

「僕はさ、美代さん……ひとりぼっちっていうのが、どんなことなのかしばらくわからなかった時があったんだ」

経験こそ悲惨なものがあったにしても、山久は、悲劇の人じゃあない。

私なんかよりもずっとしっかりした男なんだ。

「あれは、家族を殺されてほんの一週間のあいだだけだったんだけどね」

例えば、彼がものすごく紳士的なのもお姉さんをなくした時から。

もう二度と知り合い、特に『女性』を失いたくないし、わずかでも粗末に扱いたくない、と思ったからだし、

絵描きという仕事を選んで安定するように上手く線路にまで乗せたのは、少しでも多くのものを自分が描き止めていたいと願ったからなんだ。

「あの時僕は、なにもかもに霧雨がかかっているみたいに、周りがよく見えてなかったんだよ」

だから彼は、私なんかよりもずっとずっと、できた人間なんだ。