「大丈夫です。
おれもちゃんとしたデートのつもりで来てないんで」

「は?」

「新しいバッシュ。
一緒に見てくれませんか?」



そう言った尚の表情は、背にあるからわかんねぇ。

でも、子犬みたいな情けない声に思わず力を抜いた。



はぁ、と重いため息。

老けたらどうしてくれよう。



これだから甘え上手なやつは嫌なんだ。



「ちょっと離れろ」



ぐい、と無理やり押しのけて、パーカーを脱ぐ。

腰に巻いて、よし。

これでいいだろ。



「仕方がないからな。
付き合ってやるよ」



やけに恥ずかしくて、ずんずん先を歩く。



「先輩……っ!」



感極まったといった声に返事なんか返せねぇ。

なにも言わずにいると、腕を掴まれて、それで、



「道、逆っす」

「……」

「先輩って方向音痴なんすか?
可愛いっすね!」

「黙れくそが」



今すぐ帰りたい。