目の前で信じられないようなやり取りが展開される。

浮遊するベンチがミサイルのように飛び、そのベンチを黛さんが素早い身のこなしで回避する。

CGを駆使した映画の1シーンを見ているようだった。

だがこれはCGではないし、ベンチにも黛さんの体にも、ワイヤーは繋がっていない。

この目に映っているのは、全て現実に起こっている出来事…!

「……」

女性が辺りを見回す。

その仕草で、次に何を『飛ばす』か思案しているのだとわかった。

ベンチを飛ばしたのは彼女の力。

俺の靴紐を結び付けた、彼女の超能力だった。

だが。

黛さんも、女性が次に飛ばすものを探している間、おとなしく待っている訳ではない。

突然。

「!?」

俺の目前で、黛さんが『消えた』。

それは目では捉え切れない動きだとか、そういう例え話ではない。

目に映らなくなった。

視界から存在が消失した。

文字通り『消えた』のだ。

そして次の瞬間には。

「小山田君!」

黛さんは俺の真隣に現れて、俺の腕を掴んでいた。