「分かってるんだか、いないんだか…」
双瀬はビルを出た所で呟いた。
いつまでも過去を引きずって断ち切ろうとしない河村の事を、彼はいつも心配している。
それを相手が快く思っていない事は、知っていた。
わざと自分を遠ざけようとしているのも分かっている。
それでも、放っておけなかった。
裕一郎がいるから、自分がしっかりしなければ…必至で強くあろうとしているが、本当はとても脆く弱い人間だという事を彼は誰より知っているからだ。
裕一郎の両親、遼平と雛紀がこの世を去った時に河村が負った傷は、深い…。
その姿を知っているだけに、大切なものを失った時の彼を2度と見たくはない。
(けどあいつ、強情だからなぁ…)
小さくタメ息をつくと、双瀬は肌寒い中を歩きだす。
その時…。
ひらり。
何か赤いものが視界の端に映った。
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