「それにしても、おまえが言ってたのが前田さん家だったとはね」
この辺りは昔からある古くて大きな家が目立つ区画だったが、裕一郎が指し示したのは中でも一番大きな屋敷だった。
事務所で場所を聞いた時には『多分、この辺り』と数件の家をマークしていたので、現場に来て初めてそれがこの家だと河村は知ったのである。
「…久司、ここの家の人を知ってるの?」
「いや。面識はないが、古くからこの一帯の大地主だからな…地元ではちょっとした有名人だ」
「ふぅん、地主ね。だからこんなに大きな家なんだ」
言いながら、裕一郎は立派な門構えの中をこっそり覗きこむ。
「ここにいても微妙な違和感、分かる?」
「言われれば、何となくな」
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