「裕…」
河村に肩を叩かれ、ぼんやりしていた少年はハッとした。
「お前に負担がかからないよう出来るだけ俺が何とかするから、そんな顔するな」
「久司…」
心の中を見透かされたような気がして、目を伏せる。
「オレ、別にそんなつもりじゃ…」
「お前に暗い顔は似合わねーよ。子供は子供らしく、今は無邪気に笑ってろ。そんな顔は大人になれば、いくらだって出来る」
「なっ…子供扱いするなって」
ムッとして立ち止まった少年を見て、河村はくるりと背を向けた。
「ははっ、子供、子供〜。俺から見たら、お前は青い春まっただ中の子供だよ〜」
(それって単なるオヤジのひがみじゃないのか…)
裕一郎はひとりごちる。
けれど、それは事実。
口では一人前の事を言っても、裕一郎が河村の庇護の元にいるのは確かなのだ。
自分が子供なのは分かっている。
けれど守られるだけの存在ではなく、いつか彼と対等に付き合える存在になりたいと思うのだ。
(いつか…)
どんどんと先を歩いていく河村の背中をしばらく見ていた裕一郎は、握りしめていた右手の拳をそっとほどく。
(いつかその背中に追いついてみせるからな)
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