「お待たせ」
ジーンズとパーカーに着替えた、裕一郎が部屋から出てきた。
「用意できたか、じゃあ行こう」
吸いかけのタバコを灰皿でもみ消すと、河村は立ち上がる。
「あれ、双瀬さん帰ったんだ」
静かになった事務所の中を見回して裕一郎が言うと、
「居たって、役に立たないから追い返した」
何とも素っ気ない答えが返ってきた。
河村は何も話そうとはしないからよく分からないが、双瀬から聞くところによると2人は大学時代の同級生らしい。
そこから付き合いが始まって、もう20年になるという事だった。
だが、河村が彼に対してとる態度は、ただ単にいつも厄介な仕事を持ってくるからだけではない気がする。
その辺りの事情は、さすがの双瀬も教えてはくれなかった。
どちらかといえば、河村が双瀬を避けようとしている雰囲気があるように思える。
(ま、いつか話してくれる日がくるといいんだけどね…)
無理に聞き出す事はしたくないので、時間の流れに任せる事に決めていた。
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