だが、彼の言う《知らない顔》なる生徒の姿はどこにもない…。


「いないけど…それがどうかしたのか?」


「本当の本当に、見当たらないんだな」

「あ、あぁ…」

裕一郎が頷くと、

「そっか、良かった」

啓太はホッとした様子で胸をなで下ろす。


「どこが…オレはちっとも良くない。どういう事かキチンと説明しろよ」


今度は裕一郎が問い詰める番だ。

ジリッと近づくと、彼は少し困ったような表情を浮かべて言った。


「それがさ、僕もついに見ちゃったんだよ」


「……見たって、何をだよ。主語がないから分かんないって」

「見たって言ったら決まってんだろ。幽霊を、だよ」


「幽霊…どこで?」


「どこでって、さっきの僕の様子見てて分かんないのか!?」

じれったい、啓太は足を踏み鳴らす。


「ここだよ、《この教室で》に決まってるだろっ」


ヒステリックに床を指さすと、今にも泣きそうな顔でそう訴えた。

他の生徒に何事かという視線を向けられた裕一郎は、慌てて口元に人差し指を立てて静かにするような仕草を見せる。

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