「て、てめっ……!」
立てないながらも、拳銃を乱射しようとする館長さん(偽)。
瀬川さんもナイフの刃先を阿弓の首に突き刺そうとしてる。
や、やばい!!
「阿弓」
颯馬さんはやけに冷静な声で、妹の名前を呼んだ。
「お前なら、今なら出来んだろ」
「ハッ……遅せぇんだよ、兄さん!」
吐き捨てたセリフの後に、すぐ阿弓は鋭い犬歯で瀬川さんの手に噛み付いた。
「ぃだっ?!」
手が緩んだ隙に、そのまま腕からするりと抜け出す。
「んの、ガキ……!」
床を蹴って空中で前転し、その勢いで瀬川さんの顔を踵で踏みつける。
ぐにょっ、と変な音がした。
「うごっ、?!」
犯罪者とはいえ、よくあんな整った顔を躊躇無く蹴れるなぁ……
あまりの衝撃に瀬川さんは気絶し、崩れるように倒れた。
その隙に、颯馬さんが手錠を掛ける。
「ほい、えーっと、十一時半、くらいかな?まぁいいや、瀬川 紅一、窃盗未遂で逮捕〜」
いいのか、そんな適当で!
こんな状況なのに、颯馬さんのマイペースに呆れる。
「て、てめっ」
館長さん(偽)が銃を構える。
けど、阿弓はその銃を足場にし、タンっと身軽に飛んだ。
「なっ……」
そのまま近くの壁を蹴り、体制を変えて首に手刀、後頭部に膝蹴りをお見舞いした。
早い。
「ぐぉあっ!」
手から落ちた拳銃を、目が覚めた時にまた手に取らないよう、着地と同時に遠くへと蹴っ飛ばす。
この間、約十秒弱。
「成敗、押忍っ!」
達成感に満ちた爽やかな笑顔で、阿弓は戦闘を終えた。

