スマホの通話口をずらして質問に答える。

「うん…調子悪いみたい。なんか早く帰って来いって…」
 
「珍しいなー、飛翔さん、空手やってんでしょ?身体は丈夫な方だって聞いてたけど……」

「やばいんじゃない?!癌とかだったら大変だよ!早く行ってあげたほうがいいよ!」

「そう?……じゃ、ごめん、私先帰るね!」

スマホに向かって早口で伝える。

「兄さん、すぐ帰るから!」

何があったかわかんないけど、とにかくダッシュだ!!














「ただいま!」

店の出入口とは反対の、家用の玄関から靴を脱ぎ散らかして上がる。
 
「あー……おかえり……」

ふらつきながら兄さんが来た。
今朝見た時より、顔色が悪い。

「ちょっと!何があったか知らないけど、寝てなきゃダメでしょ!」

「だいじな……話があるから、ゲホっ、その後で休む……」

「大事な話?」

「もう飛翔は休んでなさい!」

奥から母さんが飛んできた。

「その話は、私がする。蝶羽、ちょっとこっちに来て」

なんだか緊張してるような顔立ち。

私は言われるままに、母さんに付いて行った。








「え?何、ここ?」

二階の奥の、母さんの部屋。そこの開いたクローゼットの前に何故か連れて来られた。

普通にコートやら古い本やらが綺麗に入ってる。

「あなたも知る時が来たのねぇ……」

母さんが独り言みたいに呟くと、クローゼットの奥の壁を押した。


  ガチッ  ゴトト…


「うわっ?!」

機械が動く音。ゴゴゴと家が地震みたいに揺れる。

思わず私は頭を抱えてその場にしゃがんだ。

音は十秒もかからずに止んだ。母さんが慣れた手つきで奥の壁に手をかける。

「さ、入って。」

いつの間にか、奥の壁がどんでん返しになってて、中に入れるようになってた。

うちにこんな、絡繰みたいな仕掛けがあったとは……

 恐る恐る母さんのあとに続いて、中に入ると―――

「!!」