「これ、この前のコンクールの」


琉生君は、バックからノートパソコンを取り出して、動画をセットした。

それは、コンクールの舞台で演奏する琉生君の動画だった。


「俺、花瓶入れ替えてくるから」


「あ、私がやるよ」


「いいよ。ばあちゃんと見てて」


それだけ言い残すと、
花瓶を片手に病室を出ていってしまった。


パソコンからは、あの美しいメロディが流れ、ピアノを弾く琉生君の姿が映っていた。


「こんなに上手くなっちゃって……」


おばあさんがボソりと呟いた。


入院するまで、ピアノはおばあさんに教わっていたって言っていたから、コンクールで優勝だなんて、嬉しいに決まっている。


「私、感動して泣いてしまいました…」


私がそう言うと、おばあさんは画面から顔をあげて私を見据えた。


「この曲はね、私もこのコンクールで弾いた曲なのよ」


「…えっ…」


「結婚が決まって、丁度ピアニストを引退する前のことだったの。好きな人に贈るのにぴったりの曲だったから、私はそれを弾いた。
でも、銀賞だったわ。それでね、琉生に言ったの。
好きな人ができたら、コンクールでこれを弾いて、金賞を取りなさいって。
私は自分の夢を孫に託したの。
そうしたら、琉生は、しっかりやり遂げてくれたわ」


おばあさんは、涙ぐんだ目で笑う。


おばあさんも、好きな人に贈った曲だったんだ…。

そして、琉生君も。

そっか、好きな人に贈るために、この曲を弾いたんだ。