緊張したまま座っていると、
いつの間にかトップバッターの演奏者が演奏を初めていた。
すごい…レベルが高い……。
感情がこもった演奏。
優しい音色……。
だけど、南條君だって…!
5番目の、南條君の番がきた。
南條君は堂々と舞台の真ん中までくると、深く礼をした。
上げられた南條君の顔は、緊張といった様子はなく、ただ、真剣に前だけ見つめていた。
イスに着くと、
南條君は胸に手を当てた。
深呼吸をして、そっと鍵盤に手を置く。
優しい音が、会場を埋め尽くした。
私は、何度も聴いたその旋律に耳を傾け続けた。
今まで聴いた以上に、南條君の心が込められている気がする。
曲調が変わる度に、南條君との思い出が目に浮かぶ。
初めて話した時、しょっぱなからバカにされて、すごく苦手だと思った。
すぐ人をバカにするし、上から目線だし。
だけど、そんなのは最初だけだった。
彼の演奏を聞いて、心が救われた。
こんな感覚は、初めてだった。
本当は優しくて、誰よりも輝いていて、かっこよかった。
南條君と話す度に、新しい発見があって、知る度に、見直していった。
すごいって言うのは簡単なことだけれど、そんな言葉じゃ申し訳ないくらいに、南條君はピアノと真剣に向き合って、努力をしていた。


