「南條君のおばあちゃんも、きっと、そんなの望んでな─────」
「俺のばあちゃんは、このコンクールでプロのピアニストなのに金賞を取れなくて、名誉に傷をつけた。
金賞をとったやつに一気に全てを持っていかれた。……怖かったんだ。俺も。
だから、よかったんだ…これで」
南條君は、半ば自分に言い聞かせるように言った。
名誉に傷をつけた…。
怖い?南條君が?
違う。南條君は、出たいはずだ…。
私には分かる。
誰よりも、誰よりも努力したのだから。
「ほんとに…そう思ってるの…」
「思ってるよ」
私が絞り出した声に即答する。
嘘だ。嘘だ嘘だ。
「お前には、分からないと思うよ。じゃあな」
南條君は私に次の言葉を選ばせる前に、
私の頭を大きな綺麗な手でぽんぽんと叩いてから、部屋を出ていってしまった。
薄暗い部屋に1人残された私。
私は、閉ざされた扉をしばらく見つめていた。


