「南條君は…それでいいの…?」
「…えっ?…」
南條君は私の言葉に目を見開く。
「南條君は、コンクールに出なくていいの…?」
薄暗い部屋に私の声だけか響く。
南條君は何か言いたげに目を伏せる。
「俺は……」
「今まで頑張ってきたのも、必死に努力していたのも、私は全部見てきた。だから思うんだ。本当はコンクールを諦めきれないんじゃないかって…」
私は続ける。
「出ないって言うなら仕方がないけど、私は、南條君の演奏を1人でも多くの人に聴いて欲しいって思った。私は、南條君の演奏で救われたから」
悠希にさえ打ち明けたことのない苦しみ。
両親が死んで、表ではいつも通りの私でいて、心では泣いていた。
そんな私に、南條君は音楽で、姿勢で、私に勇気をくれた。


