深夜、寝付けずにいると、
部屋の扉が不意にガチャリと音を立てて開いた。
大きな人影が私に近づいてきた。
「佐伯…起きてる…?」
「南條君…?」
人影の表情は伺えないものの、
声と佐伯という呼び方から、
人影は南條君だということが分かった。
「こんな時間に悪い。明日早ぇから、今言っとかなきゃと思って…」
「ん…?」
私はベットから立ち上がって小さい電気をつけた。
最後に見た姿と同じ、
元気なさげな南條君がいた。
「コンクールは、ごめん。お前が一番応援してくれてたから…」
「私は…全然。本人は南條君だから…。ただ………」
私は言いかけたところで口を噤んだ。
これを言って、どうするのだろう。
これを言って、どうなるのだろう。
これを言ってしまったら、彼の気持ちが揺らいでしまうかもしれない。
コンクールを諦めた、諦めざるをおえなかった彼の気持ちを…踏みにじることになってしまうかもしれない。
だけど、
伝えたい。
後悔して欲しくはない。
後悔は、したくない。
私は、思い切って、
言葉を口にした。


