ボソッと言ったその言葉は、
私に考える暇も与えずに儚く消えた。
「え……?」
ようやく絞り出すことができた声も、
言葉にはならなかった。
「ばあちゃんの容態が、危ないらしい…。これから九州に帰らねぇと…」
おばあちゃんの容態が急変……。
九州に……?
到底3日で帰ってこられる訳がない。
おばあさんの容態も心配だけれど、
コンクールに出られないなんて…。
私は今まで、一番近くで南條君の頑張る姿を見てきていた。
天才と呼ばれる南條君でも、
人の何倍も努力をしていた。
夢のために努力を惜しまない南條君は、とてもかっこよかった。
「悪い…お前には、すげぇ応援してもらってたのに…」
南條君は、一つ一つ絞り出すように言葉を紡いでいった。
「いや…私は……」
私は、状況を理解できずにただ目を泳がせていた。
一番悔しいのは南條君なのに…。
今まで頑張ってきたのは…南條君なのに…。
南條君は、急ぎ足で私の横を通り過ぎると、そのまま二階へと上がっていってしまった。
私はただ呆然とその場を動けずにいた。


