沈黙が訪れる。
だけど、不思議と嫌な沈黙じゃない。
初めて南條君のピアノを聞いたあの日から、
私は何度も演奏を聴かせてもらいに訪れていたから、
なんとなく慣れてしまったのかもしれない。
「聞いてく…?」
お盆に箸を置くと、
南條君はピアノに身体をうつしながら聞いてくる。
「邪魔じゃない…?」
そう問うと、いつものことだろ。
と苦笑された。
ポロン…と最初の音が部屋いっぱいに広がる。
ピアノを弾いている時の南條君は、
本当に誰か分からなくなるほど、
普段とはかけ離れていた。
そこには、ピアニストとしての南條君の姿がある。
一瞬にして人を惹き付ける演奏に、私は既に聴き入らずにはいられなくなっていた。
南條君の演奏は、世界一だと思う。
友達だから、とか、
そんなんじゃなくて。
南條君の演奏には、
それだけ人を惹き付ける力がある。
私は確信していた。
専門的なことはなにも分からないけれど、南條君の演奏は、世界中の人に聴いてもらうべきだ。
最後の音が余韻を残して部屋に響く。
私はいつものように拍手をした。


