「あぁ。そうだな…。俺も、そう思う…」 先輩はそう言って、 私にハスミンを撫でている時と同じ微笑を向けた。 いつか、私の前で素顔で笑ってくれる時がくるのだろうか…。 「そのうち、な…」 先輩はそう呟き、 ネクタイをしめた。 「ど、どこか行くんですか?」 私は先輩の大きな背中に声をかける。 「あぁ。少し出てくる…」 先輩はそれだけ言うと、財布だけポケットに突っ込み、すみれ荘を出た。 きまぐれな猫のような人だ……。 私の足元で、ハスミンがニャアと鳴いた。