部屋に静寂が訪れた。
一ノ瀬先輩は猫を抱えたまま、
私を見下ろしている。
一ノ瀬先輩とはあまり話したことがないから、少し緊張する…。
「あの、なんかすみません…」
私は呟く。
「どうして謝る…?今日はゆっくりするといい。なにか要るものはあるか?」
初めてこんなに先輩の声を聞いた…。
あまり、みんなの前ではしゃべらないから。
そのことにただ驚く。
「いえ、大丈夫です。あっ……」
私が言い終わる前に、
黒猫がしなやかに先輩の腕の中から飛び出て、私の元にくる。
綺麗なオッドアイが目の前に飛び込んだ。
「可愛い…ですね」
私は猫に手を伸ばしながら言う。
「猫は、好きか…?」
先輩の問に、私は迷うことなく答える。
「はい!前に、おばあちゃんの家に猫がいたんです。もう、死んじゃったんですけど…」
「そうか……」
先輩はそう言って、
私のそばまで来て猫の頭を撫でた。
流れた黒髪の隙間から見える片目は細められていて、
今まで見た中で一番優しい顔をしていた。
先輩も、こんなに優しい顔をするんだ……。
猫は嬉しそうに喉を鳴らしている。