「零士〜、いる?」
トントンと軽くドアを叩く。
すると、中から濡れた黒髪が顔を覗かせた。
「あれ?すみれ先輩。どうしたんですか?」
彼の名は、鈴屋零士。
「はい、肉じゃが。凛空先輩から。っていうか、また水着でお風呂入ってたの?」
零士は、バスタオルを首にかけて、
下には競泳水着を履いている。
でも、これもよく見る光景だった。
「サンキューっす。って…呆れないで下さいよ。楽しいですよ?すみれさんも入ります?」
零士は袋を受け取ると、
美味そ、っと声を漏らす。
零士の水泳バカも、相変わらずだ。
仕事は、近所のスイミングスクールで水泳を教えているらしいけど、
それでもまだ水に触れてたいなんて…。
零士と話すときは大体水泳の話で、
他のことはあまり聞くことがなかった。
「季節の変わり目は風邪引きやすいから気をつけてね」
私はそう言い残して、
零士の部屋をあとにした。


