「じゃあ、また遊びに来るから」
見慣れたすみれ荘の門の前。
大きなバックを抱えた3人の先輩は、
そう言って手を振った。
今日は卒寮の日。
小さなすみれ荘に卒寮式はない。
少しあっけなく感じながら、
私は手を振り返す。
「大学と仕事、頑張って下さい」
私の言葉に答えるように、
一ノ瀬先輩の抱えるペットケースに入ったハスミンがニャアと鳴いた。
私はしゃがんでハスミンと目を合わせた。
柵越しに、ハスミンが鼻を出している。
「よかったね、ハスミン。これからは先輩と二人暮らしだね」
また、ハスミンがニャアと鳴く。
もう、連絡をし合わなければ、
ハスミンどころか、先輩たちに会うこともなくなっちゃうのかな…?
「ハスミン連れて遊びに来るから…。大丈夫だよ…」
一ノ瀬先輩が、私の心を読み取ったかのようにそう言った。
「楽しみにしてますねっ」
私は溢れだしそうな涙を堪えた。
泣かないって、決めたんだ。
今日だけは、
笑顔でいよう、笑顔で見送ろう。
そう決めたんだ。