~ すみれ side ~
「えっ、なっ、へ!?」
私の足元に膝をかかえる形で長身を丸めてしゃがむ悠希を、私は目を見開いたまま見下ろした。
「すみれさ、たまにすげぇ悲しそうな顔すんじゃん…?やっぱり、家族のことかなって」
「えっ…?」
全然自覚なかった…。
私の思考は、
自然と忘れたいあの時へ巻き戻される。
優しいお父さんと、
いつも笑っててくれたお母さん。
その日は、久しぶりに休みが取れたお父さんの誘いで、海へ行く途中の高速道路を走っていた。
後部座席に座る私とお母さんは、
二人ではしゃいでいた。
でも、一瞬にしてその幸せは崩れ去った。
目が覚めたのは、真っ白な箱、病室。
真っ赤な目で私を抱きしめた悠希。
両親は、
その時既に息を引き取っていた。
助かったのは、私一人。
私は一瞬にして全てを失った。


