「蓮先輩は、すみれ荘のお陰で猫ちゃん飼えましたしね」
高城君も、一ノ瀬先輩の猫ちゃん、ハスミンを愛おしげな目で認める。
「うん。みんなも…そうだよね…」
一ノ瀬先輩の言葉に、
みんなが応える。
「俺は、すみれ荘に来て、大好きなピアノが好きなだけ弾けるようになりました」
「ボクも、ムリに気を遣わんでもようなったし」
「俺も、大切な友達を見つけることができました」
「俺も、悠希先輩に恩返しができました」
「された覚えないけど」
高城君のセリフに、悠希がふっと吹き出す。
それにつられてみんなが、笑い出した。
みんな、何かしらの理由があるから、
分かりあえて、
お互い支えあって、
本当に、素敵なところなんだ、ここは。
「みんなに出逢えてよかった。ほんとに、ありがとう」
悠希が、珍しく真面目に頭を下げた。
目に涙を滲ませていたのを私は見逃さなかった。
「ゆ、悠希!?やめろってぇ」
凛空先輩も、うっすらと涙を浮かべていた。
なんだかんだ言って、
やっぱり、卒業が嬉しくもあり悲しくもあるのは、3年生のみんなだって同じなんだ…。
「すみれの花言葉は " ささやかな幸せ " 。一つ一つは小さいけれど、その小さな幸せが積み重なって、俺たちは…こうしてすみれ荘を笑って出て行ける。ほんと、お前たちありがとう!」
「きゃっ!?ちょっと悠希!」
悠希の隣に座る私と琉生君は、
悠希に頭をガシガシと撫で回される。
「すみれ荘は、いつまでもすみれ荘だ。例え、俺たちが卒業しても、すみれたちが卒業しても、千尋と零士が卒業しても、すみれ荘は、俺たちが青春を送った証だ」
悠希の言葉がなんだかクサくて、
悲しくて、
私たちは、ふふっと笑った。
ずっと一緒にはいられないから、
出逢いがあれば別れもあるから、
そんなの、分かってるよ。
だから、今日だけは、笑っていよう。
みんなといれる、
この8人で過ごせる最後まで、
私は笑っていよう。


