「さむっ…」
そう呟いた鈴屋君の息が、
寒さを視覚的に伝えてくれる。
「ほんと。もう3月なのに…」
私は手に息を吹きかける。
すると、鈴屋君は自分の着ていたパーカーを脱ぐと、私の肩にかけてくれた。
私はビックリして鈴屋君を見上げると、
鈴屋君はなんでもないように空を見上げて言った。
「……悠希先輩たちがいなくなるのは…寂しいですか…?」
月の光で照らされた鈴屋君の顔は、
どこか儚げだった。
「うん…」
私は小さく続ける。
「私ね、親が2人とも死んじゃって、身寄りもいなくて…。側にいてくれたのが悠希だけだったんだ」
鈴屋君の目が、少し見開かれた。
そう言えば、両親の事を話したのって初めてだったっけ…。
「だから…また、一人になっちゃうんじゃないかって、不安なんだ。えへへ…」
私は無理な笑を作る。
なんだか、鈴屋君にはスラスラと言葉が出てくる。
鈴屋君は、フッと笑うと、手すりに添えられていた私の手に、自分の手を重ねた。
冷えきっていた手に、
鈴屋君の温もりが広がる。
「一人じゃ…ないですよ」
「えっ?」
私は、下げ始めていた視線を、
鈴屋君に戻す。
鈴屋君の真っ直ぐな視線が、
私を射抜く。


