「すっみれぇー!!!」
すみれ荘の玄関をくぐるなり、
悠希が手を広げて私に飛びついて来る映像が、スローモーションで繰り広げられる。
でも、悠希のスキンシップは、
高城君によって阻止された。
「悠希先輩ー!!」
高城君は、私と悠希のあいだに入って悠希を抱きとめる。
「ちっ、千尋っ…!お前じゃない!」
高城君の力は強いようで、
悠希が引き剥がそうとするけれど、動かない。
「先輩!!受かったんですね!?あはは!先輩でも受かるんですね!?あはは!!」
「ち…ちひ……」
高城君は嬉しそうに飛び跳ねる。
「悠希のHPが…」
一ノ瀬先輩の言葉に、悠希に目を向けると、悠希は高城君のハグに衰弱しきっていた。
「合格発表から帰ってきてそうそう、千尋君に抱きつかれたら、誰でもそうなりますよ」
鈴屋君も苦笑いで言う。
私もつられてクスリと笑う。
でも、私の心の中から、
ザラザラした感覚は消えなかった。
その正体はとっくに分かりきっていたのに、
今が楽しくて、
私はその思いを胸にしまった。


