「いたっ……」


「そうやって泣いて、悠希先輩をたぶらかしたんですね。私は、誰よりも悠希先輩を好きでいた。あんたなんかより、全然 ──── 」


「いいかげんにしろ!」


掴まれていた髪が開放されたと思うと、
肩を震わせ、大倉さんを見下ろした悠希が目の前に立っていた。


「ゆう…き…」


「佳奈…頼むから、これ以上すみれを傷つけないでくれ……」


悠希の言葉に、大倉さんは目を見開く。


「そうやって…いつも、すみれは、すみれだけはって……なんなんですか!?そういうのが一番ムカつくの!!悠希先輩だって、私に手を出したくせに…。私は、悠希先輩を追いかけてこの高校に入って…!なのに、この女のせいで、私は!」


大倉さんの叫びに近い声が響く。


「もう…いいよ………」


静まり返った坂道に、私の呟きが空回る。


「もういいよ…。悠希も、大倉さんと付き合ったらいいじゃん。キスしてたじゃん。私じゃなくていいよ…大倉さんでいい…」


私の目から、溢れるように涙が流れた。


この涙は、
悲しみの涙?
悔しさの涙?
怒りの涙?

私には、分からなかった。


もういいよ。

私が我慢すれば、
悠希も大倉さんといられるし、
大倉さんから嫌がらせをされることもない。

もう、やめよう。

恋なんてやめよう。

傷つくくらいなら、
こんなの、いらないよ。


私は、スクバを拾い上げると、
涙で滲んだ視界のまま坂をかけ降りた。