「お願いします。凛空先輩がいないすみれ荘は、すみれ荘じゃないんです!」


「許さん」


私も言うけれど、
お父さんはそう言い放った。


うう…なんかツラい……。


どうしよう…このままじゃ…。



その時、ガチャリと音を立ててリビングの扉が開いた。


「お父さん…」


扉から顔を覗かせたのは、
凛海ちゃんだった。


「部屋に戻ってなさい」


お父さんがキツイ視線を送るけど、
凛海ちゃんはリビングへと入ってきた。


「お父さん、どうしてお兄ちゃんのお願いは聞いてあげないの?お兄ちゃんが家帰ってきても、すみれ荘の話しかしないの知ってるでしょ?」


「凛海」


お母さんが凛海ちゃんを部屋に戻そうと立ち上がる。


「お母さんだって、いっつもお父さんの言いなりじゃん!子供の好きなことさせてあげようって思わないの!?お兄ちゃんばっかりひどい!そんなの、親じゃない!」


凛海ちゃんは捨てゼリフのように叫ぶと、リビングの扉を乱暴に閉めながら走っていってしまった。


「凛海!」


お母さんが叫びに近い声をあげるけど、
凛海ちゃんの声は返ってこなかった。