「お前たち、俺が誰か忘れたわけ?」
突然の声に、私は背後を振り返る。
そこには、壁にもたれた悠希がいた。
……そっか…!
理事長だ………!
「悠希……!」
私は雨宮先輩の手を引くと、
悠希に駆け寄った。
「まだ、間に合うぜ」
悠希は雨宮先輩に白い封筒を投げる。
受け取った封筒には、
手紙と同じ几帳面な字で、
退学届けの文字。
「なんで……」
雨宮先輩は目を丸くする。
「まだ、口頭だけで、書類は全部預かってる。だから、お前はまだ、書類上はうちの生徒だ」
悠希の言葉に、
拭ってもらった涙が、
嬉し涙として戻ってきた。
「凛空さ、俺と何年の付き合いだと思ってんの?お前がここに残りたいことなんて、全部知ってんだよ」
……だから悠希は、
退学届けが受理されたってことも嘘だと知ってたから、焦ったりしなかったんだ。
それ以上に、なにより、
雨宮先輩との、信頼関係があったから。


