「雨宮先輩、入ります」
私は声だけかけてドアを開けた。
「あ、すみれさん。いらっしゃい。どうしたの?」
ダンボールしかない殺風景な部屋に置かれた机に向かい、筆を執っていた雨宮先輩が、笑顔を浮かべながらこちらにやってくる。
雨宮先輩の香りがふわりと近づく。
「あの…あの…」
" 行かないで下さい "
そう言いたいのに、
その言葉が出てこない。
" もう、無理だよ "
そんな先輩の声が聞こえてきそうで…。
「……」
先輩は、私の次の言葉を待っていた。
言葉が出なくて、私はただ口をパクパクさせていた。
「また、あのこと?」
先輩が言ってることは、すぐに分かった。
「もう、学校辞めたし、未練もないし、俺はいいと思ってるから」
先輩はそう言って笑う。


