私の存在に気づいた悠希が、
リビングの扉を開けた。
「す、すみれ……」
あからさまに焦る悠希だけど、
今の私にはそれどころじゃなかった。
「どういう…ことですか……?」
私は雨宮先輩を見据える。
雨宮先輩は、何事もなかったかのように、いつもの紳士的な微笑を浮かべて歩み寄ってきた。
「今日は、早いんだね」
先輩は、落ちたバックを拾いながら言う。
「誤魔化さないで下さい!」
私は声を張り上げてしまう。
「なんでですか…?本当に退学するんですか…?」
重なった視線が、サッと逸らされる。
今までそんなこと一度も聞いてない。
なんで……?
「しょうがないよ。もう、決めたことだから」
しょうがない。
それは、肯定の意味だった。
無理に笑う先輩が、ただ切なかった。
「しょうがないなんて嘘です…!だって、先輩、誰よりもすみれ荘が、みんなが好きだったじゃないですか…!1番の宝物だって、言ってたじゃないですか…!」
涙がポロポロと床を濡らした。
「ごめん…」
雨宮先輩はそう言い残して、
私にスッとカバンを持たせると、
すみれ荘から出ていってしまった。


