「ほんま、ありがとな。すみれちゃん」
3時間の練習を終え、
みんなの寮とは離れた位置に立地する、
すみれ荘に足を進める。
そんな時、不意に架神君がそんなことを言った。
「私の方こそ、いっぱい迷惑かけちゃってるし…。みんなもいい人でよかった。でも、架神君がギター弾けたなんてちょっと意外」
私は冗談めかして言う。
「それ、ほんまよく言われる」
クスッと笑う架神君は、
いつも寮で見ているよりもずっと、
大人びていた気がした。
「でも、すみれちゃんも思ったより歌覚えるの早かったし、めっちゃ歌上手くて驚いたわ」
私は少し恥ずかしくなって視線を下げた。
9月になり、少し涼しくなった筈なのに、
まだ火照った感じが残っている。


