「ボーカルがいないと、バンドは成り立たない。お願い」
女の子の視線もキツく私に刺さる。
私は人にお願いを頼まれると断れないタイプの人間だ。
だからといって、バンドで歌えと言われて、そんなことができるほどハイスペックじゃない。
「じゃあ、メンバーの誰かが歌ったら…?」
「俺たちは楽器で精一杯で、歌まで回れない」
楽器のことは本当に無知なので、
そう言われてしまうと何も言えない。
「力になりたいけど…歌なんて歌えないよ…?」
「そこをなんとか」
一人の茶髪の男の子が、私の手を握ってくる。
大きな瞳から注がれる熱い視線。
うぅ……どうしろって言うの……!
「わ、分かった。とりあえず、やるだけやってみます……」
やると言わなければ帰さないと言わんばかりの視線に、私は渋々了承した。
やると言ったけど、
とりあえず、私の方でもボーカルを探してみる。
ボーカルの子が決まれば
それですべてが解決するわけだから。
私は飛び上がり喜ぶバンドマン達に別れを告げると、友達の元に戻った。


