「お母さんか……」
高城君が親子の背中を見つめながら、
そう呟いた。
「えっ?」
私が聞き返すと、高城君は再び私の手を握った。
温もりが戻ってくる。
「いや…最近会ってないなって…」
悲しそうな笑顔。
そういえば、夏休みだけど帰省はしてないって言ってたし…。
「まだ一週間あるし、会いに行ったら?そこまで遠くないでしょ?」
私の言葉に高城君は握った手の力を強めた。
もしかして…まずかったかな…。
「ご、ごめん…」
そう言うと、高城君は首を横に振った。
「いや、いるにはいるんですけど…。うちも蓮先輩と一緒で片親で、仕事が忙しいみたいなんですよね〜…」
…そうだったんだ…。
すみれ荘には色んな事情がある人が住んでるし、いつも明るい高城君にも、やっぱりそういうのはあるんだ…。
「暗くならないで下さいよ!先輩は笑顔が可愛いんですから、笑っててください。」
高城君は、いつものように無邪気な笑顔に戻った。
私も、高城君の笑顔が大好きだよ。
それは、今は胸にしまっておこう…。


