その時、こてっ、と一ノ瀬先輩の頭が音もなく私の肩に落ちてきた。
驚いて見ると、先輩は既に眠りに落ちているようで、
無防備な可愛い寝顔をしていた。
そりゃ、そうだよね…。
毎日バイトを夜遅くまで頑張って、
たまの休みに遊園地に連れ回されて…
疲れてるよね。
私は一ノ瀬先輩の目にかかった髪を払う。
普段はあんなに無表情なのに、
寝てるときは、可愛い。
今日は、ありがとうございます。
一ノ瀬先輩。
私は心の中でお礼を言った。
「お兄ちゃんが…女の人とあんなに仲良くしているの、初めて見ました」
隣で華恋ちゃんが言う。
仲良い…?
「仲良くは…ないかも…」
「お兄ちゃん、小さい頃から女の人が苦手だったから…。あんなに楽しそうなお兄ちゃん、久しぶりです」
楽しそう…?
私にはいつもと同じようにしか見えなかったけど。
女の人が、やっぱり苦手だったんだ。
それなのに家族のために、女性相手に接客して。
一ノ瀬先輩は、本当に頑張り屋で、優しい。
家族にも、すみれ荘の皆にも。