「あっ、いやっ、なんでもないです!」
あまりにも先輩の態度が明らかだったので、私は話を逸らそうとした。
「いや…。やっぱり、今日来てたのは、佐伯だったのか…」
先輩はふぅと息をついて、
改めてハスミンを抱き上げる。
「き、気づいてたんですか!?」
「あれだけガン見されればな…」
先輩は苦笑いして言う。
その笑顔は、お店で見た時よりも柔らかいもののように感じた。
「すみません……」
私は恥ずかしくなってうつむいた。
「いや、慣れているから…大丈夫だ…。ただ、お前が来るなんて驚いた」
先輩はハスミンを抱いたまま私の向かいのイスに座る。
「友達に無理やり…。先輩が働いてるなんて、思いもしなくて」
「あそこは時給がいいからな…。しょうがなくだ」
それを聞いてもやっぱり、
一ノ瀬先輩が接客業はどうしても信じられない。
「で、でも、うちの学校って、バイト禁止ですよね…?」
「あぁ。秘密だ」
先輩はそう言って薄く笑うと、ハスミンを抱いたままリビングを出ていってしまった。
一ノ瀬先輩がバイトをする理由…。
でもそれは、すぐ後日、
知ることになる。


