「あの日の君も…まだ幼いというのに、

そんな憎しみにこもった目を残し…戻っていったね」





「…そうですね」





「今でも鮮明に覚えているよ、あの日のことを。


君も…そうだろう?」






…うなずくのは癪に触るけど、もちろん覚えている。


あなたに再会して…もっと鮮明に思い出せたよ。




今だって、目を閉じれば…






ほら、聞こえてくる。





愛しい、あの人の声が。











「おかあさまー!」



たったった…っと、小さな女の子が

母親の元へと駆け寄った。





「ふふ、どうしたの?霧花」




まだ3つか4つ程の年であろう彼女。


それに似合った、愛くるしい笑みを浮かべながら母親へと抱きついた。




「人間界に行くって本当?

私も連れてってくれるって、本当!?」




「ええ、本当よ。

一緒に行きましょうね」




「やったあ!!初めてだぁ!」





霧花の母親が人間界へ行く目的…それは、

彼女の育ての親が亡くなったと聞いたからであった。




両親を小さい頃に事故で亡くしていた母親は、

母方の叔母に18歳まで育てられた。



その叔母が亡くなったという…



優しかった彼女は、自分の命が狙われてると分かっていながら、

叔母の元へ行こうと決心したのだ。




付き添いの者を何人も連れたら、大丈夫だろう。



ならば、霧花にも人間界という素晴らしい世界を見せてあげよう。





そう、母親は思ったのだ。